本研究は生体における形の変化を客観的および定量的に評価する方法を検討し、病理学へ応用することを目的としている。本年度は、フラクタル幾何学を生体の構造に応用するためのコンピュ-タ-画像解析法の確立、および血管分布のフラクタル性の測定を行った。その結果は次のようにまとめられる。 (1)現有のパ-ソナルコンピュ-タ-と顕微鏡を、科学研究費によって購入したマルチ計測ユニット(JEー12C)およびモニタ-(PMー953T)を通して結合し、顕微鏡の画像を直接コンピュ-タ-で処理できるようにした。また顕微鏡撮影の精度を上げるために、対物レンズ(DFPLAN 2X)および照明装置を購入した。 (2)パタ-ンの自己相似性(フラクタル性)を確かめるための画像処理プログラムを作成した。Boxーcounting法(正方形のます目により画像の分布の特徴を調べる方法)およびMassーRadius法(同心円の中の画像の分布を基にして調べる方法)の両者についてプログラムを作成し、それぞれの結果を比較した。 (3)実験動物(ネコ15例、ラット8例)の脳血管内に鋳型用樹脂を注入し、その後サリチル酸メチルまたはグリセリンにより組織を透明化して血管の標本を作成した。さらに上記の画像解析により血管分布のフラクタル性を調べた。またヒト蛍光眼底血管像(13例)について同様にしてフラクタル性を調べた。 その結果、血管の分布は測定する尺度によって、2つのフラクタル次元で特徴づけられることが分かった。例えば、脳表の動脈では10ー120ミクロンの観測スケ-ル範囲でフラクタル次元が1.30となり、140ミクロン以上のスケ-ルでは1.79となることなどが分かった。 (4)ヒト網膜の血管は、高血圧や糖尿病などによって拡張や蛇行を示すが、この様な変化は小さい方のフラクタル次元に主として反映され、大きい方の次元には余り反映されないことが明らかになった。 以上のように生体でのフラクタル次元を求める方法が確立した。今後計測例を増やしていくと共に、2つの次元の出てくる原因を調べていく必要がある。
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