カルシウム拮抗剤によるマラリア原虫クロロキン耐性の消失作用に関する研究

1991 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 02807044
• 研究機関: 大阪工業大学
• 研究代表者: 田辺 和裄 大阪工業大学, 工学部, 助教授 (40047410)
• 研究分担者: 高田 季久 大阪市立大学, 医学部, 教授 (10046815)
• キーワード: マラリア原虫 / Plasmodium / クロロキン / カルシウム拮抗剤 / カルモジュリン阻害剤 / 抗うつ剤 / 薬剤耐性

研究概要

昨年度の研究成果をふまえ、一連の研究を行い以下の成績を得た。
1.P.chabaudiにおけるクロロキンの蓄積を高速液体クロマトグラフィ-により調べた。クロロキン感受性P.chabaudiでは原虫感染マウスにクロロキン投与1時間後で急速な取り込みが見られ、それ以降もクロロキンの蓄積が亢進したが、クロロキン耐性原虫では1時間における取り込みも低く、それ以降の蓄積亢進も認められなかった。その結果、4時間における蓄積の差は2.5倍にもなった。
2.カルシウム拮抗剤のベラパミル、三環系抗うつ剤のデシプラミンを感染マウスにクロロキンと同時投与したところ、クロロキン耐性原虫株、感受性原虫株においてクロロキンの原虫内蓄積量の増加が見られた。耐性原虫ではクロロキン単独投与で見られなかった1時間以降におけるクロロキンの蓄積の亢進が認められた。
3.ベラパミルによるクロロキン耐性の消失現象を電子顕微鏡的に観察した。クロロキン耐性原虫はクロロキン単独では著明な形態変化を示さないが、ベラパミルを同時投与することにより以下のような変化が認められた。すなわち、Food vacuoleの膨大化、Food vacuole内マラリア色素の集積、小胞体の消失、細胞質内ミエリン体の出現、リボゾ-ムの凝集、核内小粒の出現などである。これらの変化はクロロキン感受性株にクロロキンを投与したときに得られる所見とほぼ同じものであった。また上記変化のうち、最も初期に現れるのはFood vacuoleの膨大化であった。
以上を総合すると、ベラパミルなどの薬剤によるP.chabaudiクロロキン耐性の消失の機序は、カルシウム拮抗剤がクロロキン耐性原虫にクロロキンの蓄積を引き起こし、Food vacuoleの機能障害を与えて原虫を死滅させることによる、と考えられる。

研究成果

• [文献書誌] K.Ohsawa,K.Tanabe,I.Kimata and A.Miki: "Ultrastructural changes associated with reversal of chloroquine resistance by verapamil in Plasmodium chabaudi" Parasitology. 103. 185-189 (1991)
• [文献書誌] A.Miki,K.Tanabe,T.Nakayama,C.Kiryon and K.Ohsawa: "Plasmodium chabaudi:association of reversal of chloroquine resistance with increased accumulation in chloroquine resistant parasites" Experimental Parasitology. 74. (1992)
• [文献書誌] 田辺 和裄: "マラリア原虫のクロロキン耐性とそのリバ-サル" 化学療法の領域. 8. (1992)
• [文献書誌] A.Miki,K.Ohsawa,S.Takada and K.Tanabe: "In vivo study on reversal of chloroquine resistance in Plasmodium chabaudi" The 26th Joint Conference on Parasitic Disease,US-Japan Cooperative Medical Science Program. (1991)
• [文献書誌] K.Tanabe: "Cation transporting ATPase of Plasmodium yoelii In "Biochemical Protozoology as a Basis for Drug Design"" Taylor and Francis,London, 635(415-423) (1991)