エンドトキシンは感染症に伴って生体に様々な致死的な障害をもたらすことから、臨床上の大きな問題となっている。近年、エンドトキシンのアナログで、活性を有しない化合物の中に、エンドトキシンに拮抗してその作用を抑える物質が存在することが見いだされている。この様な物質はショック等のエンドトキシン疾患の治療への応用や、レセプタ-、情報伝達の研究への利用が期待される。ここではエンドトキシン活性の中のマイトジェン活性を指標として、エンドトキシンを化学的に修飾することにより不活化し、それらのエンドトキシン活性抑制作用と化学構造を調べた。サルモネラ、及び大腸菌由来のエンドトキシンを種々のアルカリ処理により脱アシル化したりピドAや、リピドA部分のフリ-の水酸基にサクシニル基を導入したエンドトキシンは、いずれもマイトジェン活性は完全になくなると共に、活性型リピドAによるマイトジェン活性を抑制した。これらの物質のうち、アルカリ処理化合物による抑制は、B細胞マイトジェンのみならず、コンカナバリンAによるT細胞マイトジェンをも抑えることや、エリスロシン染色の結果から、脾臓細胞への直接毒性作用によることがわかった。一方、サクシニル化合物は細胞毒性は示さず、吸着細胞に非依存的に、エンドトキシンによるB細胞マイトジェン活性を特異的に抑制した。その作用は抑制物質を前処理した場合に最も効果的であり、マイトジェン添加前に抑制物質を除いても同様の抑制作用を示すこと、さらにはマイトジェンと抑制物質の分子比に依存することが明らかになり、活性体に拮抗して起こることがわかった。しかしながら純品である化学合成リピドAを用いた同様の実験ではサクシニル体はむしろそれ自体の活性が強くなり、抑制作用は示さないことや、天然のサクシニル化エンドトキシンの化学分析、及び薄層クロマトの結果から抑制物質はモノリン酸化合物であろうと推定された。
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