研究概要 |
cytochrome P450(以下P450)に対するモノクローナル抗体を用いて,有機溶剤代謝に係わるP450分子種同定およびこれらの分子種の発現を修飾する因子の検討を行った。 1.ラットのトルエン代謝において,CYP2B1/2,2E1,2C11/6はベンジルアルコールの生成に,CYP1A1/2,2B1/2,2C11/6はo-クレゾールの生成に,CYP1A1/2,2B1/2,2E1および2C11/6はp-クレゾールの生成に係わっていた。これらのアイゾザイムはベンゼンとトリクロロエチレンおよびスチレンの代謝にも関与していた。 2.未処理のラットにおいて,トルエンとスチレンの代謝の関与する主なアイソザイムはCYP2C11/6であるが,ベンゼンとトリクロロエチレンの場合はCYP2E1であった。 3.一般にCYP2E1のKm値はCYP2C11/6よりも小さく,CYP2E1は低濃度の有機溶剤の代謝に関与していると推察された。 4.CYP2E1はアルコール,低糖質食,絶食,糖尿病によって誘導され,加齢や妊娠に伴い減少した。また成熟雌ラットは雄よりもCYP2E1含有量が多かった。一方,CYP2C11/6は加齢に伴い上昇し,その発現は成熟雄ラットに優先し,雌におけるこのアイソザイムは妊娠に伴い減少した。 5.ベンゼン,トルエン,スチレンおよびトリクロロエチレンの代謝には種差が認められた。ベンゼンとトリクロロエチレンの代謝は常にマウスの方が高かったが,トルエンとスチレンの代謝速度は,低濃度ではマウスの方が,高濃度ではラットの方が高かった。ラットとマウスの間にはcytochrome P450の総量に差は認められないが,CYP2E1はマウスの方が,CYP2C11/6はラットの方が多く,この分布は差が有機溶剤代謝の種差の一因である。 6.CYP2E1は低濃度の四塩化炭素とクロロホルムの代謝と肝毒性に関与していた。以上の様に有機溶剤に対して各P450アイソザイムの基質特異性が観察されるので,有機溶剤の代謝と毒性を評価する際にはP450アイソザイムの標的組織における分布が重要となろう。
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