研究概要 |
1.冠性T波のシミュレーション:冠性T波のシミュレーションは,主に前壁中隔梗塞モデルを用い,お互いに再分極電位の出現方向が異なる場合のT波について検討した。その結果,心室中隔に生じる再分極異常がV_<1-3>のT波の形を決定する大きな要因であることが理解された。今後は,心筋の異方向性を考慮したシミュレーションモデルを作製し,冠性T波成立の機序を検討していく予定である。 2.虚血類似液灌流前後の活動電位変化:前年度までの検討で,再酸素化後に生じる心筋活動電位(AP)の一過性延長の機序には,少なくともCa^<2+>の内向き電流は関係せず,IK_<ATP>開口薬はAP延長を抑制するという実験事実が得られた。しかし冠性T波は,しばしば数カ月以上続く現象なので,持続的なAPの延長が推定される。そこで長時間続くAP延長を実験的に作製するために,細胞膜構造を変化させると考えられる両親媒性物質(ampliphile)やproteaseを虚血類似液に混入し実験を行った。その結果,lysophosphatidylcholine(LPC)を添加すると濃度依存性に,再酸素化時のAPが延長かつ持続するという結果であった。またphospholipase A_2(PLA_2)添加では再酸素化後のAPが短縮し続ける例が多く認められた。そこで再酸素化時のAPの長さは細胞膜障害の程度に影響され,膜構造の変化を伴う場合にAPの持続的変化が生じると考えられた。またproteaseについては一定の見解を見い出し得なかったので,さらに検討を続ける予定である。加えてAPの一過性延長の機序には,Na^+-Ca^<2+>交換機構の関与が推定されることより,Na^+-Ca^<2+>exchange blockerを用いて,この点を明らかにする予定である。 3.以上の1項と2項の研究により,臨床でみられる冠性T波の細胞生理的機序と,冠性T波出現時の虚血境界域の活動電位分布が,ほぼ明らかになったため,今後は治療の方向性をも考慮しつつ研究を進める予定である。
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