腎生検に用いられるSilverman生検針を用いて、ウサギ腎の皮質部を前後方向に採取した。この際採取された腎皮質切片は、直径約1mm、長さ約3mmで、その中に最低でも100本以上の近位曲尿細管および近位直尿細管を含むことが明らかとなった。この尿細管を用いて、ウサギ腎での一般的微小単離尿細管潅流と同様の実験を行なったところ、基底側膜電位は、約ー40からー70mVと、生検針を用いずに腎スライスより単離した場合と全く変わらない値を示し、このpreparationが実用に耐えることが明らかとなった。生検針を用いて採取された尿細管は、4℃に保つと、最低4時間以上も細胞膜電位を保つことも明らかとなり、この点からも生検針の応用が可能であることが明らかとなった。尿細管を低温で保存する際の溶液の検討では、通常の重炭酸リンゲル液よりも、細胞内環境を模倣した高カリウム高浸透圧液のほうがよいとの結果が示唆され、現在はこの溶液を専ら使用するようにしている。更に今回は、ヒトの腎組織を腎腫瘍摘除標本より得る機会を得、実際に微小単離潅流した。この結果、約ー40からー55mVの基底側膜電位を得、基底側溶液中の重炭酸イオンを低下させた際の膜電位の変化から基底側膜上にNa/HCO3共輸送体が存在することを、ヒトで初めて証明することとなった。この共輸送体が欠損した場合には、細胞内のアルカリ化と、近位型の単独型(Fanconi症候群を伴わない)尿細管性アシド-シスをきたし得ると考えられることから、本研究法を用いてこれらの疾患での病因究明のための方法論に新しい道を開く可能性が出てきた。現在先天性の尿細管代謝異常症の症例が蓄積されつつあり、同様の方法を更に種々の疾患の病因究明に役立てるための方法を検討しつつあり、今後この点で更に研究を進めたい。
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