本研究は、生体の骨格筋の持つ構造・機能を模倣した、従来の油圧機構や電気モ-タに代わる、新しいアクチュエ-タを用いて機能性義手の開発を行なおうとするものであった。素材として熱を直接力学的エネルギ-に変換可能、滑らかな動きをする柔軟性、動作音がないという静粛性などの特徴を備えた形状記憶合金を用い、構造としては、先ず生体骨格筋と同様に収縮の最小単位であるサルコメアを真似て人工サルコメアをつくり、これを直・並列に組み合わせた人工筋肉と呼ぶアクチュエ-タを構成した。また、再変形力を得るためには従来はバネなどを用いていたが、我々は拮抗筋構造とした。さらに、この人工筋肉をヒト骨格に適用し、従来型のロボットとは異なった、ヒトの形態・機能にできるだけ近づけた義手を開発しようとした。 初年度では拮抗筋構造による新しい人工筋肉の完成を目指し、形状記憶合金人工サルコメアを用いた、ヒト骨格寸法に合う拮抗筋構造を持つ新しい人工筋肉の設計および製作を行なった。 本年度(最終年度)においては、マニピュレ-タの運動力学的解析による設計法を開発した。すなわち、我々の開発した人工筋肉の特性は、生体骨格筋と全く同様の特性方程式で表現可能であることがわかり、この特性方程式を導入した動的シミュレ-ションを行ない、さらに目的に応じて容易に設計変更が可能な設計方法を確立した。これにより、ヒト前腕の解剖学的特徴を取り入れたマニピュレ-タ骨格および関節からなるフレ-ムに人工筋肉を取り付けたモデルのコンピュ-タシミュレ-ションが可能となり、この結果、人工筋肉の取り付け位置によるさまざまな負荷の影響に対する対策が容易となった。このようにしてマニピュレ-タの設計を行ない、製作を行なった。できあがったマニピュレ-タでの結果は、シミュレ-ションの結果と10%以下の誤差であることを確認した。
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