研究課題
鼻咽腔閉鎖不全の患者に対する治療法として、咽頭後壁に脂肪を注入し隆起をつくり鼻咽腔閉鎖を得る方法について研究を行っている。臨床応用に先立ち、脂肪移植の方法の違いにより移植された脂肪がどの程度吸収されるかを調べるために基礎実験を行った。方法は白色家兎24匹を用いて鼠径部わり脂肪吸引器を使用して採取した脂肪組織と外科手術的に採取した脂肪塊を、それぞれ腹直筋上と耳介軟骨上に移植した。2週間後、5週間後、20週間後、30週間後に移植部分を採取し、移植方法と移植床の違いによる脂肪移植後の長期的な観察を行った。肉眼的な観察では、移植後5週以内では手術的に採取した脂肪塊移植の方が、脂肪吸引器にて採取した脂肪注入法よりも移植脂肪残存が多い傾向がみられたが、20週以降の長期的観察では外科手術的採取群と同程度または脂肪注入群の方がより高い残存傾向がみられた。また移植床による比較では血行の良い筋肉上の方が耳介軟骨上よりも高い残存傾向を示した。以上の結果より血行の良い部分では脂肪注入法はより有効な移植方法であることが示された。臨床的には顔面半萎縮症の患者の萎縮した頬部、および限局性強皮症の患者の前額部に脂肪注入法を行い良好な結果を得ている。今後も経過観察が容易である疾患に対して脂肪注入を行いその安全性を検討した後、鼻咽腔閉鎖不全の患者に対して咽頭後壁に脂肪注入を行う治療法を開始する予定である。