研究課題
前年度までの基礎実験により10週目以降の後期では脂肪塊移植したものの方が脂肪塊残存が多いものの残存量はばらつきが大きくまた固いカプセルにおおわれる傾向がみられた。それに対して注入移植の方では脂肪残存は少ないものの平均的にまた触診上柔らかく残存していた。脂肪注入の残存脂肪は10週以降で約30%程度という結果が得られた。脂肪注入法と脂肪塊移植による比較では緒家の報告があるが、今回我々の実験では脂肪塊移植の方が量的には勝るものの、質的には脂肪注入の方がより自然な形態を作り出せる可能性が示唆された。しかし注入移植では残存脂肪が少なく、期待するボリュームを得るためには何倍かの移植量が必要となると考えられた。これらの実験結果をもとに臨床応用を行っているが、現在までに顔面半萎縮症や顔面変形の患者などに脂肪注入を行い、好結果を得ておりこれらの症例は変形修正の度に必要な容積の2倍以上の脂肪を注入し組織学的に落ち着いたところでほぼ期待される形となっている。鼻咽腔閉鎖不全の症例では1歳時に軟口蓋奇形腫切除を行った12歳の患者に対して咽頭後壁に脂肪注入を行った。術後同部は隆起し脂肪の残存があることが確かめられているが、尚、鼻咽腔閉鎖を得るには不十分で現在経過観察中である。今後脂肪の安全な注入量や注入部位などの解決しなければならない問題はあるものの、さらに経験を重ね内視鏡下に局所麻酔下で治療を行うことを目標としている。実施に当たっては、患者の鼻咽腔閉鎖の程度を構音検査、呼吸流量計、レントゲン検査、後鼻鏡、鼻腔よりのファイバースコープを用いて診断を行い術後の構音の変化を観察し、脂肪吸収の程度に応じてくりかえし追加の注入を必要とすると考えている。この方法が確立されれば、治療のための入院や全身麻酔を必要とせず口蓋裂児の鼻咽腔閉鎖不全の治療に大きな成果が上がるものと期待される。
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