研究課題
一般研究(C)
口蓋裂の手術の目的は、単に裂を閉鎖することだけではなく患者に鼻咽腔閉鎖機能(発声時に軟口蓋が挙上して咽頭後壁に接し、鼻腔と口腔を遮断する機能)を獲得させることである。この研究の目的は口蓋裂二次手術後に残った鼻咽腔閉鎖不全を、最近形成外科領域で用いられている脂肪注入のテクニックを応用し、直視下に必要量の脂肪を必要な部位に注入して鼻咽腔閉鎖を獲得する方法を確立することにある。我々は実験動物を用いて脂肪移植の方法の違いによって、あるいは移植床の違いによって、移植された脂肪に差があるかを調べ口蓋裂児への応用のための基礎実験とした。材料は白色家兎24羽を用い2群に分ける。1群12羽では腹直筋上に脂肪を移植する群とし、2群12羽では耳介軟骨上に脂肪を移植する群とした。脂肪採取の方法は、右ソケイ部より脂肪吸引器を用いて脂肪0.5gを採取し、また左そけい部からは外科手術的に脂肪塊0.5gを採取した。それぞれの脂肪は1群では、左右腹直筋上にポケットを作成し右には脂肪注入移植を行い、左腹直筋上には脂肪塊移植を行った。2群では左右の耳介軟骨上にポケットを作成し同様に右には脂肪注入移植を行い左には脂肪塊移植を行った。両群それぞれ3羽ずつ2週、5週、10週、20週後に移植床の標本の採取を行った。結果は肉眼的、組織学的観察においては10週目以降の後期になると脂肪塊移植したものの方が脂肪塊残存が多いものの残存量はばらつきが大きくまた固いカプセルにおおわれる傾向がみられた。それに対して注入移植の方では脂肪残存は少ないものの平均的にまた触診上柔らかく残存していた。脂肪注入の残存脂肪は10週以降で約30%程度と思われた。今回我々の実験では脂肪塊移植の方が量的には勝るものの、質的には脂肪注入の方がより自然な形態を作り出せる可能性が示唆された。しかし注入移植では残存脂肪が少なく、期待するボリュームを得るためには何倍かの移植量が必要になると考えられ、現在臨床応用が進行中である。
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