研究概要 |
ヒト肝細胞癌組織(N=13)における凝固活性を測定したところ,組織因子の他に第VII因子非依存性に直接第X因子を活性化する因子を認めた。肝癌組織homogenateの10,5000xg上清をSephacryl S300で分画したところ,void volume近傍に高分子量の第X因子活性化因子が溶出された。この因子活性は熱に不安定でCon A(組織因子を阻害)やチオ-ルプロテア-ゼの阻害剤であるIAA,HgC12では阻害されず,leupeptin,TPCK,PMSFで阻害されたことからセリンプロテア-ゼ様の蛋白分解酵素と考えられた。また,予想に反して非癌部においても同様の第X因子を活性化する因子が同定された。以上の結果から肝癌組織においては組織因子以外の凝固活性(第X因子の活性化)はGordonらにより報告された癌特異的チオ-ルプロテア-ゼよりも,むしろ未知のセリンプテア-ゼ,あるいは組織因子ー活性化第VII因子複合体の可能性が示唆された。高分子量のセリンプロテア-ゼとしてプロテアソ-ムが報告されているのでその活性をSucLeuLeuValTyrーMCAを基質として測定したところ,肝癌,非癌部共にSephacryl S300によるゲル濾過では第X因子活性化因子とほぼ同じ分画に溶出された。プロテアソ-ムによる第X因子の活性化を直接証明するため本酵素を血小板の細胞質分画からカルパイン(Ca++依存性中性プロテア-ゼ,当教室で頻回に精製している)の精製を参考にしてPAGE上単一バンドにまで精製した。基質特異性,阻害剤,至適pH,SDSーPAGE上のsubunitの分子量等,既報のプロテアソ-ムと類似していた。またこの精製段階でプロテアソ-ムに対するactivatorが発見された。このactivatorは熱に不安定でプロテアソ-ム活性を示さないが,濃度依存性にプロテアソ-ムを活性化させた。今後,精製酵素を用いて第X因子活性化能を検討するとともに,肝癌組織における本酵素とそのactivator活性を非癌部のそれらと比較していく予定である。
|