研究概要 |
不整脈の内、心房細胞は最も臨床で認められるが、心拍の不整のよる不快感や不安感、atrial kickの欠如や房室弁の逆流による心血行動態への悪影響、血栓塞栓症の高い発生率など問題点が提起される。この心房細動の発生の予防または消失が可能となれば薬剤治療が不必要となり、血栓塞栓症による脳梗塞も防ぐことが可能となる。心房細動の発生機序や持続について基礎研究の新知見は、ある一定の領域の心筋において多数のreentryが同時に発生し(leading without obstacles),このためにはある一定の心筋量が必要である。従って、右心房や左心房の自由壁が分割されると各々心筋量は減少し、心房細動は発生しなくなる。さらに洞房結節が温存されるので、心室の心拍は心房中隔を経由して洞房結節に支配されることとなる。(電気生理学的効果)心房隔離術の心血行動態に与える影響は、平成2年度の研究実績にて報告したが、特に両心房隔離術はatrial kickが欠如するため影響は大きい。しかし、術前の正常な心機能を有する例では、その影響が少ない事が分かった。平成 3年度の研究では、1)手術侵襲を少なくするための体外循環を必要としない手術法の開発では、房室輪の切離においてレ-ザ-やcryosirgryの使用なしでは困難であることが判明した。 2)体外循環使用による初めての右房隔離術を臨床に応用し成功した。39歳男性で心房中隔欠損症に合併する心房細動を認め、心房中隔欠損閉鎖術とともに右房隔離術を一期的に実施した。洞房結節の位置を心房マッピングにて推定した後、体外循環下に研究と同様な術式を実施した。心房中隔、左心房は洞性調律で両心室とも洞房結節に支配されていた。隔離された右心房は独自の遅い調律であるが心房細動は発生しなかった。術後約10ケ月まで心房細動の発生を認めていない。この基礎研究による臨床応用での目的の一部は達成できたと考えられる。
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