1)平成2年度には脊髄損傷モデルで検討をすすめた。用いたモデルは脊髄後索のみを切断する部分脊髄損傷モデルで、本法は神経症状が出にくい欠点はあるものの、らっとの生存率も高く、損傷部の固体差も比較的少ないので、本研究に適したものであった。移植するグリア細胞のマ-キングとしてはPHAーLを用いた。損傷部へのグリア細胞の移植にはいくつかの方法を試みた。まず浮遊細胞液の注入を試みたが、注入可能な液量に限界があり、生着率を考慮すると多くを期待できなかった。そこで培養系での神経細胞の突起伸展活性が単層培養グリア細胞の表面活性と培養上清の液性成分に由来することを考慮して、メンブランフィルタ-上に幼若グリア細胞を培養した後、そのフィルタ-を損傷部に直接接触させることにより、グリア細胞の移植を行なった。本法により移植した細胞は生着していることが細胞のマ-キングにより確認された。 2)平成3年度には脊髄損傷の基礎的デ-タを集める目的で、より大きな組織が得られる大脳皮質損傷モデルを主体に研究を進めた。まず損傷局所での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)とそのレセプタ-の発現をin situ hybridizationにより遺伝子レベルで、免疫染色とWesternblottingにより蛋白レベルで解析した。その結果、損傷部位に接しておもにアストロサイトにbFGF遺伝子と蛋白の発現がみられた。またFGFレセプタ-遺伝子の発現を検討すると、損傷周囲ではニュ-ロンとともにアストロサイトににもレセプタ-遺伝子の発現がみられた。次に皮質損傷後の視床萎縮に対するbFGF局所投与の効果を検討した。皮質損傷後bFGFをしみこませたゼルフォ-ムを局所に置くと、溶媒のみに比べて1カ月後の視床萎縮が明かに抑制された。この効果は損傷直後にbFGFを投与すると有効であるが、3日後に投与しても無効であり、損傷後早期にbFGFが必要であることが判明した。
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