我々の今までの研究により脳死症例においても僅かながらも脳血流が存在し、脳の特定部位においてはその機能が若干であるものの保たれていることが明らかとなった。ひの部位が具体的にはどこであるのかを同定することは極めて困難であったが今回の研究にて、すなわち神経生理的・流体力学的・神経内分泌学検索から下垂体前葉および視床下部の一部であることが判明した。厚生省脳死判定基準にて脳死と判定され、通常の脳血管撮影でいわゆるnonーfillingを呈している症例においても視床下部ホルモンは分泌され、また下垂体前葉ホルモンに関しては単に分泌のみならず、負荷試験にも正常型の反応を示す症例が存在した。また、経頭蓋骨的ドプラ-を施行するとこれらの症例の内、約半数に血流が確認された。また、心停止後に病理解剖を施行し得た症例では下垂体、視床下部を中心に正常構造を有し、成長ホルモンやプロラクチンの分泌顆粒も確認された。すなわち心停直前までこれらの部位の神経細胞が生存し、かつ機能していた可能性を示唆した。もちろん我々の症例は、最終的にはいずれも停止にて死亡しており、今回の結果が脳死の概念と予盾するものではないことを強調したい。これら脳死を向かえても機能していると考えられた細胞は脳全体としては極めて僅かな部分であり、脳全体が壊死に陥る過程の中での現象であるものと推察された。今後は脳全体の細胞が最終的に機能を停止し、死滅するのは何時であるのかを考察する予定である。
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