硬膜外麻酔は(硬麻)、出血性ショックによって引き起こされる酸塩基平衡や代謝内分泌動態の急激や悪化を抑えるというが、硬膜外麻酔の範囲によって差があるかどうかを検討した。 [方法]雑種成犬14頭を7頭ずつ上胸部硬麻群(1群)と胸腰部硬麻群(2群)に分けた。ハロセン麻酔下に椎弓切除術を行って、1群ではT4、2群ではT13で燧膜外腔へカテ-テルを留置した。両大腿動脈、肺動脈にもカテ-テルを挿入した。0.5%ハロセン麻酔のもとで対照値を測定後、1群には2%メピバカイン0.07ml/kgを注入し、つづいて0.07ml/kg/hrで持続注入した。2群には2%メピバカイン0.4ml/kgを注入し、つづいて0.4ml/kg/hrで持続注入した。その後ハロセン濃度を0.2%にした。30分後に測定を反復し、その後の30分間に35ml/kgの脱血を行った。以後30分ごとに2時間まで測定を繰り返した。測定項目は、心拍数、動脈圧、肺動脈圧、中心静脈圧、肺動脈楔入圧、心拍出量、動脈血pH、塩基過剰(BE)、血糖、乳酸、ピルビン酸、エピネフリン、ノルエピネフリンとした。測定終了後に色素を用いて硬麻の拡がりを調べた。 [結果]1群の硬麻の拡がりはC4ーT5、2群のそれはC5ーL6であった。脱血によって、1群の動脈圧は129±6(SE)mmHgから59±12mmHgに低下したが、2時間後には96±9mmHgに回復した。2群の動脈圧は119±4mmHgから17±2mmHgに低下し、その後も25ー30mmHgの低値が続いた。動脈血pHとBEは、脱血によって両群とも有意に減少したが、2群の減少のほうが大きかった。乳酸は1群で増加しなかったが、2群で有意に増加した。1群のエピネフリンは、0.6±0.3ng/mlから2.0±0.5ng/mlに有意に増加したが、2群では増加しなかった。 [結論]出血性ショックに対しては、交感神経を広い範囲にわたって遮断するよりも、心臓交感神経だけを遮断したほうが、循環、酸塩基平衡、代謝、内分泌動態を良好に保つことができることがわかった。
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