胎便吸引症候群の病態の一部に、子宮内の急性低酸素状態における胎児胸郭の吸引運動(あえぎ様呼吸運動、ギャスピング)が存在すると言われている。ヒトでは超音波断層法を用いて間接的にしか観察できないために、実験動物をもちいて直接胸郭運動を観察する実験を施行した。在胎110〜120日(満期146日)の日本ザーネン種山羊5頭をもちいて計8回の慢性生理実験を施行した。手術的に胎児胸郭にトランスデューサーを装着し、術後慢性生理状態となった時点での胎児胸郭運動の観察および臍帯を周期的に圧迫した仮死状態での胸郭運動を比較検討した。胸郭運動はトランスデューサーからの電位差により評価した。ストレスの無い状態での胎児胸郭運動はヒトで観察されるように30分に1〜2回の胸郭筋の収縮による電位差を観察した。これは我々が超音波断層法によりヒト胎児で観察する胎児呼吸様運動と考えられた。一方周期的(圧迫40秒、解放80秒、計15回)臍帯圧迫による胎児仮死状態を作成したところ、臍帯圧迫を解放した時点で有意な胸郭運動による電位差を観察し、胎児心拍モニターにおける一過性瀕脈と同期して観察された。これらのデータより、子宮内胎児仮死状態においては安静時に比較して胸郭運動が有意に亢進しており、臍帯の血流の変化にともなう血圧の変動による迷走神経反射が胎児胸郭運動に影響を及ぼしていることが示唆された。
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