研究概要 |
前年度に開発した暗所閾値電位(scotopic threshold response,STR)記録システムを用いて 1)ウサギおよびカエルにおいてin vivo STRの記録を試み、STRの種差について検討することによりSTRにおけるMuller細胞の関与の可能性を検討した。その結果カエルおよびウサギではSTRに相当する陰性波は観察されなかった。これまでにSTRを持つことが明らかにされているヒトやネコおよびサルと今回検討を行ったウサギおよびカエルとではMuller細胞のK^+透過性分布が異なるとされており、Muller細胞のK^+透過性分布の違いとSTRの有無とが符合することはSTRの発生にMuller細胞が関与していることの傍証となると考えられた。 2)ヒトにおいては眼底白点症および無βリポ蛋白血症においてSTRの所見を検討した。眼底白点症は視物質の再生遅延によって暗順応が延長する疾患であるが、今回の検討では本症の3例において充分な暗順応後のSTRは他の網膜電図(electroretinogram,ERG)成分と同様に正常であり、電気生理学的にも充分な暗順応後の網膜機能が正常であることを示した。無βリポ蛋白血症は血清βリポ蛋白の消失を本態とする常染色体劣性遺伝の疾患であり、腸管における脂肪の吸収不全から各種脂容性ビタミンの欠乏症状を呈し眼科的には非定型的網膜色素変性症を合併することで知られている。今回の検討では本症の1例でSTRは観察されず、ERGa波およびb波も高度に減弱していたが、同症例で記録した眼球電位図では異常の程度が原発性網膜色素変性症に比べて軽度であったこととあわせて考えると本症における網膜色素変性症は原発性網膜色素変性症とはその主たる障害の部位が異なる可能性が示唆された。
|