哺乳類の軟口蓋の味蕾を支配する大錐体神経(GSP)からの味覚情報が、味覚識別にどのような役割を果たしているのかを調べた。まず、ハムスタ-GSP神経からの応答を電気生理学的に調べた結果、軟口蓋への各種の糖刺激に対して、鼓索神経(CT)応答の2ー3倍の極めて大きな応答が得られた。次に、大錐体神経を切断が味覚識別能力にどのような影響を与えるかを行動学的に調べた。ハムスタ-に0.1M蔗糖に対する忌避条件付けを施した後に、GSPおよびCTの両方、GSPのみ、CTのみ、を両側性に切断して、0.001〜0.1Mの範囲の蔗糖溶液を与え、切断前と後でのlickーing行動を比較し忌避行動の変化を調べた。その結果、GSPとCTの両方を切断した場合に忌避行動が最も減衰し、ついでGSP、CTの順に強く残った。また、神経切断の確認および切断が味蕾にどのような影響を与えるかを組織学的に調べた。その結果、軟口蓋の味蕾数はGSPが正常な個体では114.5±3.5(n=2)であったのに対し、切断後1カ月目には42.3±3.1(n=3)に半減することが分かった。さらに、ラットにおいてGSPからの応答とCTからの応答を比較した結果、ラットGSPは糖に対してハムスタ-よりもさらに感受性が高いことを確認した。さらに、ラットの舌味蕾はアミロライドで処理するとNaに対する応答が顕著に抑制されるのに対し、軟口蓋味蕾にはアミロライド感受性がほとんど存在しないことが分かった。さらに、延髄孤束核のGSP投射二次ニュ-ロン応答が記録を試みた。しかし、この部位には鼓索神経および舌咽神経も投射しており、現在までのことろ数個のニュ-ロンの記録しか得られていないため、他の神経投射ニュ-ロンとの比較を行うに至っていない。さらに実験を進める必要がある。以上の結果から、大錐体神経の応答の性質は鼓索神経とは極めて異なり、特に甘味情報に関して味覚識別のために極めて重要である可能性が示唆された。
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