ラット耳下腺腺房細胞をトリプシンとコラゲナ-ゼを用いて作成し、イノシト-ルリン脂質情報伝達系におけるスフィンゴシンの作用機構を明らかにする目的で実験を行ない、次の結果を得た。 1.Fureー2をloadした細胞において、スフィンゴシンは細胞内カルシウムの上昇を引き起こした。このスフィンゴシンによる細胞内カルシウムの上昇は、細胞外のカルシウムをEGTAでキレ-トすることにより、また塩化ランタンによりほとんど抑制されることから、細胞外からのカルシウムinfluxに関与することが示唆された。 2.電気的に可透過性にした細胞においてGTPγSはイノシト-ル三リン酸の生成を引き起こすが、スフィンゴシンはこのGTPγSの効果を抑制した。この系においてカルシウムもイノシト-ル三リン酸の生成を引き起こすが、スフィンゴシンはそれに対しては阻害効果は示さなかった。この結果は、スフィンゴシンがGタンパク質そのものか、あるいはGタンパク質とホスホリパ-ゼCとの相互作用に対して、抑制的調節をすることが示唆された。 3.以上に見られたスフィンゴシンの効果は、プロティンキナ-ゼCに比較的特異的な阻害剤であるHー7やK252aによっては引き起こされなかった。この結果から、耳下腺におけるスフィンゴシンの効果はプロティンキナ-ゼCの阻害以外の作用によることが示唆された。 以上の結果から、スフィンゴシンはラット耳下腺腺房細胞の受容体活性化によるイノシト-ルリン脂質代謝にはネガティブな効果を持つと考えられ、他の情報系を介した、あるいは独自の効果によるカルシウム動員の調節に関与することが考えられている。
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