研究概要 |
昨年度までの研究により、口腔癌の大部分を占める扁平上皮癌細胞の無蛋白培養系を完成させた。この系を用いることにより、ヒト歯肉癌由来無蛋白培養細胞株(Ca9ー22PFがILー1α及びPDGFーAAを構成的に産生していることを見いだした。しかし、口腔癌細胞によるサイトカインの産生をバイオアッセイ系のみで検索することは、多くの費用と労力を必要とする。そこで本研究年度においては、無蛋白培養口腔扁平上皮癌細胞の産生するサイトカインをスクリ-ニングする目的にて既知のサイトカイン遺伝子の発現をPolymerase Chain Reaction(PCR)法を用いて検索した。 口蓋部扁平上皮癌の頚部転移巣由来の無蛋白培養株ZAPFよりNonidet Pー40を用いてcytoplasmic RNAを抽出した後に、OligoーdTカラムを通してmRNAを分離した。このmRNAをテンプレ-トとしてMoーMLV Reverse Transcriptaseにより一本鎖cDNAを合成し、これを検体としてPCR法により目的の遺伝子の増幅を行い、アガロ-スゲル電気泳動(AGE)により目的の大きさのバンドが認められるか否か検討した。今回目的としたサイトカイン遺伝子として、GーCSF,MーCSF,GMーCSF,ILー3及びILー6の5種類を選んだ。 PCR反応後の各サンプルをAGEにて分析したところ、GーCSF,ILー3,ILー6を目的とした場合には、予想されるバンドを検出することはできなかった。しかし、GMーCSFを目的とした実験では、遺伝子配列から予想される630base pairs(bp)のバンドが検出された。また、MーCSFを目的の遺伝子とした実験では、予想される450bpのバンドが検出された。さらに、このDNAサンプルをMung Bean Nucleaseにより消化し、制限酵素Stulによる切断を行いAGEにて解析したところ、遺伝子の制限酵素切断地図より予測される150bp及び300bpのバンドが検出された。これらの結果は、ZAPF細胞が少なくともmRNAレベルではGMーCSF及びMーCSFの遺伝子を発現していることを示している。今後さらに、GMーCSF及びMーCSFが蛋白レベルにおいても構成的に産生されているのかをわれわれの開発した無蛋白培養系を用いて検索する必要があるものと思われる。 以上の結果は、口腔癌の細胞生物学的特性を検索するうえでの無蛋白培養系の有用性を示すものである。
|