研究概要 |
受精直後からの哺乳類の受精卵の初期発育における遺伝要因と環境要因の関与については,十分に解明されていない。我々は,5系統の近交系マウスの2細胞期の受精卵を採集し,胚盤胞後期まで約72時間人工培養した。この間の各系統の受精卵の生存率は,87%〜97%の範囲でありまた生存率の遺伝力は,約16%であった。これらの結果より,人工培養下でのマウス受精卵の初期発育には,非遺伝的要因がより大きな影響を与えていることが示唆された。 引き続き,着床後のマウス受精卵の子宮内発育における,レシピエンした胚盤胞期の受精卵を,4系統のレシピエント雌マウス(DDD,C3H,C57BL,およびDBA)の子宮内の外科的に移植した。移植受精卵より発育した新生〓マウスの頭部を,X線規格写真撮影(頭蓋の大きさについての分析を行ない,次のような結果を得た。(1)移植受精卵より発育した胎〓マウスと通常の自然発育した胎〓マウスの生下時での頭蓋の大きさには,有意な差を認めなかったが,妊娠期間は移植実験群がコントロ-ル群と比較して,約1日延長していた。(2)4系統のレシピエント雌マウスから産出された新生〓マウス間に共通した所見として,リッタ-サイズと頭蓋の大きさとの間では負の相関があり,一方妊娠期間と頭蓋の大きさとの間には正の相関があった。これらの事は,リッタ-サイズが大きくなると,頭蓋の大きさは小さくなり,妊娠期間が長くなると,頭蓋の大きさが大きくなることを意味している。これらのリッタ-サイズと妊娠期間の影響と回帰直線を利用して統計学的に差し引いた後の頭蓋の大きさに対して,レシピエントの系統の有意な影響がみられた。これらの結果は,マウス受精卵の子宮内発育に対して,各系統の雌マウスはそれぞれの子宮内環境を通して様々な異なる影響を与えた事を示唆する。
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