研究概要 |
規則性と流動性とを合わせ持つ液晶の特異性により多岐にわたる有機反応を立体化学的に高度に制御し、通常の等方性媒体(または固相)中とは異なった高い反応選択性を達成しうる反応系を確立し、その要因を解明することを目的として、光二量化反応と熱環化反応をモデルとして検討を行い下記の萌芽的成果を得た。 1)ウラシル誘導体の光二量化:液晶を異方性媒体とするウラシル誘導体の光二量化反応において、液晶相媒体下、特に秩序度の高いスメクチック相下で高選択的高効率反応が進行することを見いだし、液晶媒体の特異性を明確に示し得た。加熱あるいは反応系への等方性溶媒の添加により、媒体液晶相を壊すと二量化の立体選択性と速度が激減した。液晶反応相の特異性は明らかであり、液晶効果は、溶質分子の単なる局在化(濃縮効果)だけでなく、遷移状態における特定二量体の生成に有利な規則的配向にも及んでいるものと思われる。 2)位置選択的DielsーAlder反応:明らかに規則的構造をとる数種の親ジエン液晶を新規に設計合成し、これを用いるアントラセン誘導体との環化反応を検討した。本反応に適した液晶温度と温度域を持つコレステリル フマ-ル酸エステル類を液晶ジエノフィルとして、2,6ージアルコキシアントラセンとのDielsーAlder反応を行ったところ、等方性相下では位置選択性は極めて低かったのに対して、大過剰の液晶ジエノフィルを用いた液晶相下では60ー70%d.e.の高い位置選択性で“syn"体の生成が優先した。本反応における液晶相の規則性は重要な因子であり、適当な液晶媒体を用いて溶質分子を高度に配向させることが出来れば、同様に高い位置選択性を達成する事ができた。本研究により、柔軟な液晶構造を利用することにより二分子熱反応を高度に制御出来ることが初めて明らかになった。液晶分子と反応基質との分子間双極子相互作用が重要な要因であろうと思われる。
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