牛乳脂肪球被膜物質(MFGM)の製剤材料としての可能性について、乳化能と消化管吸収促進作用の両面から検討した。まず乳化能を既存の界面活性剤と比較検討した。次にMFGMによる薬物の消化管吸収促進効果について水溶性薬物、脂溶性薬物、両者に難溶な薬物について検討した。結果を以下に示す。 (1)MFGMは合成界面活性剤であるTweenー80と同等以上の強い乳化能を有し、安定なエマルションを形成する。(2)低温保存によりエマルションの安定性は増大する。油相としてバタ-オイルを用いた場合特に顕著である。(3)超音波処理によりエマルションの安定性は著しく高まる。(4)MFGMエマルションは、水溶性薬物であるカナマイシン、アセトアミノフェン、ヘパリン等や水、油いずれにも難溶のアムホテリシンBの吸収には促進効果を示さないが、脂溶性薬物であるビタミンDに対して優れたリンパ吸収促進作用を有する。(5)エマルションの油相量の比率が増加すると脂溶性薬物のリンパ移行量が減少する。(6)超音波処理の有無、すなわちエマルションサイズの違いはMFGMによる薬物の吸収促進効果に有意な影響を与えない。以上の結果及び副作用面を考慮すると、MFGMは新しい製剤素材及び薬物のキャリヤ-として極めて有望であると結論される。MFGMの吸収促進のメカニスム及び薬物の体内動態に与える影響等については未解決の問題が多く残されており、今後の課題であると考えられる。
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