研究概要 |
我々は今までに,血清アルブミン(HSA)分子上には複数の,または,α_1酸性糖蛋白質(AGP)の場合には幅広い1つの薬物結合サイトが存在することに加えて,これらのサイトはいくつかのサイトが重なり合った複合的なものであることを提唱してきた. 本研究では,これらの所見に基づいて,HSAならびにAGP分子上の薬物結合サイトの微環境について検討を加えた結果,以下の知見を得た. 1)種々のスペクトル解析,熱力学的パラメ-タ及び定量的構造活性相関などの検討結果から,薬物とAGPとの結合の推進力は疎水性相互作用であることが明らかとなった.しかしながら,塩基性薬物の場合には,静電的相互作用の関与も示唆された.また,AGPを脱アシル化したアシアロAGPに対する薬物結合様式を調べたところ,AGPと同様な結果が得られたことより,AGPに対する薬物結合には主にペプチド部分がかかわっているものと推察された(J.Pharm.Pharmacol.,44,28(1992);J.Pharm.Sci.,81,16(1992);J.PharmacobioーDyn.,15,7(1992). 2)AGP分子が保持する幅広い薬物結合領域に二つの薬物分子が同時に結合し,いわゆる三元複合体を形成するが,その様式は薬物の構造や物理化学的性質を反映して複雑であるものと思われた.さらに,これらの三元複合体化により,薬物分子のキラリティは逆転することが明らかとなった.また,AGP分子上に酸性薬物結合サイトはTrp,Tyr及びLys残基の近傍にあり,一方,塩基性薬物結合サイトはTrp及びLys残基の近傍に位置することが示唆された(Biochem.Pharmacol.,42,729(1991),in press(1992);Pharm.Res.,in presd(1992);Biochem.J.投稿中). 3)微粘性評価法という新しい解析法を用いてHSA分子上の薬物結合サイトの微環境を調べた結果,サイトの幅はサイトI,II,IIIの順に広がることが示唆された.また,流動活性化エネルギ-を用いて温度に対する揺らぎを評価した結果,揺らがの程度はサイトIで最も小さいものと推察された.また,pHに伴うHSAのコンフォメ-ション変化であるNーB転移の影響を微粘性評価法により解析したところ,サイトIでのリガンド結合率の増大及びスペクトル変化は,NーB転移に伴うサイトI領域の幅の減少によるものであることが示唆された.
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