好中球浸潤における血管内皮細胞と好中球との相互作用を解析する実験系として、培養血管内皮細胞と好中球の粘着反応の測定系およびトランスウェルメンブレン上に血管内皮細胞を培養しこれを介した好中球遊走反応の測定系を確立し以下のことを明らかにした。 1.好中球の血管内皮細胞への粘着反応は、好中球に作用する好中球遊走因子だけではなく、血管内皮細胞に作用するヒスタミンあるいはトロンビンによっても亢進する。さらに、強い好中球浸潤抑制作用を持つステロイド性抗炎症薬デキサメサゾンは好中球と血管内皮細胞に対する粘着を抑制した。2.トランスウェルメンブレン上に血管内皮細胞を培養して好中球遊走活性を調べた結果、それ自身では好中球遊走活性を持たないが血管内皮細胞と好中球の粘着を亢進させる作用があるヒスタミンあるいはトロンビンと好中球遊走因子であるLTB_4あるいはPAFとを共存させると、LTB_4あるいはPAFによる好中球遊走反応は増大することが明らかになった。トランスウェルメンブレン上に血管内皮細胞が存在しない場合には、ヒスタミンあるいはトロンビンの増強活性は認められなかった。PAF拮抗剤はLTB_4単独による好中球遊走反応は抑制しなかったが、LTB_4とヒスタミンによる好中球遊走反応を抑制した。 以上の結果から、血管内の好中球が血管外に漏出する過程には、好中球遊走因子だけが関与するのではなく、血管内皮細胞に作用し好中球の粘着を増大させる物質も関与している可能性が示唆された。また、その候補としてヒスタミンあるいトロンビンなどのように血管内皮細胞にPAFを産生させる物質があることを明らかにした。さらに、ステロイド性抗炎症薬の好中球浸潤抑制作用のひとつとして好中球粘着抑制作用があることを明らかにするとともに、好中球の血管内皮細胞に対する粘着を抑制する薬物は新しい抗炎症薬になる可能性を示唆した。
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