研究概要 |
結腸癌関連糖鎖抗原であるムチン型糖タンパク質のMLS102抗原分子上には,主要糖鎖としてのSialosylーTn抗原糖鎖(NeuAc α2→6 GalNAc α1→Ser/Thr)の他に,Tn抗原(GalNAc α1→Ser/Thr)と構造未同定の短い糖鎖が存在していた。一方,正常結腸粘膜上皮細胞の産生するムチンであるMLS103抗原にはSialosylーTn抗原およびTn抗原糖鎖は存在しなかった。この結果は,結腸癌関連抗原であるMLS102抗原の発現はムチン型糖鎖の生合成段階における糖転移反応系の中に何らかの欠陥あるいは糖鎖伸長停止に係る反応系の活性化が生じたことを示唆している。本研究では,その原因を明らかにするために,[ ^<14>C]グルコサミンおよび[ ^3H]トレオニンで代謝標識した結腸癌細胞LS180細胞から免疫沈降によりMLS102抗原および103抗原を分離し,各々について,アミノ酸組成,分子量,および糖鎖の化学的性質を検討した。まず,両抗原のSDSーPAGEのパタ-ンを比較すると,102抗原は分子量13万から高分子領域にかけて4本の明瞭なバンドを示すのに対して,103抗原は分子量18万から20万にかけて幅広いバンドを示し,両者が異なる糖タンパク質であることが示された。アミノ酸組成は,MLS102抗原がセリン,トレオニン,プロリンを約60%含み,また,アミノ糖分析でも高いガラクトサミン含量が高く典型的なムチン型の糖タンパク質の特徴を示した。一方,103抗原のアミノ酸組成はセリン,トレオニン,プロリン含量はわずか25%と少なく,103抗原は102抗原に比べ糖鎖の結合していないペプチド部分が多いことが示された。MLS102抗原糖鎖の発現機構としてムチン型糖鎖の成合成過程におけるシアル酸転移反応での促進,あるいはガラクト-ス転移反応の不全による糖鎖伸長の不全が考えられるが,本研究において102抗原糖鎖の比較的短いものに硫酸化が起っているという興味ある知見が得られている。
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