単クロ-ン抗体作製のための免疫原として使用した結腸癌細胞株LS180から、単クロ-ン抗体MLS102とMLS103の二つを用いて、ヒト結腸癌関連糖鎖抗原であるムチン型糖タンパク質のMLS102抗原と、正常結腸粘膜上皮細胞と結腸癌細胞ともに産生するムチン型糖タンパク質あるMLS103抗原とを分離し、両抗原の比較検討を行い、癌関連抗原であるMLS102抗原のムチン型糖鎖の癌性変異を明らかにすることができた。 ところが、正常結腸粘膜上皮と癌細胞の産生する正常ムチン糖タンパク質であるMLS103抗原分子の糖鎖については、MLS102抗原に認められるSialosylーTn抗原、Tn抗原が存在しなく長い糖鎖が大部分であること、糖鎖の結合していないペプチド部分がMLS102抗原に比べ多いことなどが明らかにされたに過ぎなかった。 そこで、今年度は、これまで不明とされていた単クロ-ン抗体MLS103の抗原決定基糖鎖の構造を明らかにして結腸癌関連糖鎖抗原であるMLS102抗原分子に特徴的に認められたSialosylーTn糖鎖の発現機構を糖鎖の生合成の面から追求しようと試みた。そのために、第一に、MLS103ムチン型糖ペプチドのみならず糖脂質にも反応性を有することを利用して比較的容易に分離できる糖脂質との反応性を調べた。 その結果、MLS103は結腸ガン細胞から抽出した酸性糖脂質のsialylーLe^a糖脂質であるシアリルラクトフコペンタオシルセラミドのアシアロ物に反応し、抗原決定基糖鎖はLe^a糖鎖と推定された。しかし、ムチン型糖ペプチドに対し異なる反応性を示した他の抗体MLS104も同じ糖脂質と同程度に反応した。 次に、糖タンパク質の糖鎖(ムチン型糖ペプチド)とMLS103抗原およびsialylーLe^a糖鎖を抗原決定基とするMSW113抗原との反応性に及ぼすシアリダ-ゼの影響を調べた結果、MLS103の抗原決定基はムチン型糖鎖ではLe^a型糖鎖をもつ、Ga1β1→3(Fuc α1→4)G1cNAcβ1→Ga1β1→3Ga1NAcaα1→Ser/Thrであることが確認された。また同時に、MLS104はLe^a糖脂質にはMLS103と同程度の結合性を示したが、MLS103抗原とMSW113抗原およびムチン型糖ペプチドに対してMLS103と異なり、MLS104の結合量は減少していた。しかし、糖ペプチドをシアリダ-ゼ処理することによりMLS104の結合量は増大しMLS103のそれと一致した。 以上の結果から、正常結腸粘膜上皮細胞と結腸癌細胞ともに産生するムチン型糖タンパク質であるMLS103抗原の糖鎖には、ヒト結腸癌関連糖鎖抗原であるMLS102抗原であるMLS102抗原の糖鎖には認められない、Ga1NAcの3位にガラクト-スをもつ以下に示す糖鎖が存在するためにMLS102抗原糖鎖に比べて長い糖鎖に富むこことが推察された。 Ga1β1→3(Fucα1→4)GlcNAcβ1→Ga1β1→3 Ga1NAcα1→Ser/Thr NeuAcα2→3 Ga1β1→3(Fucα1→4)GlcNAcβ1→3 Ga1NAcα1→Ser/Thr Ga1β1→3(Fucα1→4)GlcNAcβ1→Galβ1→3(NeuAcα2→6)Ga1NAcα1→Ser/Thr NeuAcα2→3 Ga1β1→3 Ga1NAcα1→Ser/Thr Ga1β1→3(NeuAcα2→6)GalNAcα1→Ser/Thr NeuAcα2→3 Ga1β1→3(NeuAcα2→6)Ga1NAcα1→Ser/Thr したがって、MLS102抗原で認られる、Sialosy1ーTn抗原とTn抗原の発現の原因の一つはGa1NAcの3位にガラクト-スを転移させる酵素の活性調節の欠損によるものと考えられた。
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