研究概要 |
本研究は.血管新生過程において細胞外マトリックスとして形成されるフィブリン網の役割を明らかにすることを目的とした。血管新生は一般に既存血管の血管内皮細胞の分裂,増殖,管腔形成の過程を経て行なわれると考えられている。しかし本研究において我々は,血管新生の初期過程でまず血液はフィブリンを主体とする細胞外マトリックス間隙を循環し,つぎにその血液流路への線維芽細胞の遊走と内皮細胞への分化によって管腔,すなわち血管が形成されるという血管新生に関する新しい概念を提起できる結果を得た。以下本研究での実験結果を述べる。 (1)血管新生過程の観察:家兎耳介に透明窓を装着(家兎耳窓法)し,顕微鏡下で血液循環動態,循環網の伸長などを観察した。その結果,初期過程では循環網からの血球の漏出などまだ血管が形成されていないことを示唆する結果が得られた。 (2)血液流路の形態学的考察:人工的に調製した内方陥没化赤血球で循環網を潅流し留置させた。その赤血球を目印として血液流路の形態学的検討を電子顕微鏡で行い,血液流路の壁の一部又は全周で細胞が欠落し、フィブリンの豊富なマトリックスで壁が形成されていることを認めた。 (3)フィブリン網溶解の影響:plasminogen activatorを透明窓内に注入しフィブリン網を溶解すると血液循環網の形成は完全に阻止された。 (4)線維芽細胞の管腔形成における役割:自家線維芽細胞を培養,india ink particleで標識したのち透明窓内に注入した。数日後にこれらの細胞が管腔を形成し,そこを血液が流れていることが認められた。 以上の結果から,血管新生の初期過程においてフィブリン網形成は必須であるという本研究の主目的については明確することができた。さらにその事実を基礎として,上述したように血管新生の機序について新しい概念を提起するまでに研究を発展させることができた。
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