赤血球炭酸脱水酵素Iアイソザイム(CAI)および亜鉛(Zn)濃度が、甲状腺機能異常症において数ケ月前の平均化された甲状腺機能を反映する可能性について検討した。 1.赤血球CAIおよびZn濃度は甲状腺機能亢進症で低値を示し、治療後甲状腺ホルモンの正常化に約2ケ月遅れて正常化した。また、2ケ月前の血清T4、T3濃度と最も良く相関した。以上のことから、赤血球CAIおよびZnは数ケ月前の平均化された甲状腺機能を反映すると考えられた。2.赤血球CAIおよびZn濃度は甲状腺ホルモン濃度が高値を示した亜急性甲状腺炎では正常であり、治療後も正常範囲の値を示した。亜急性甲状腺炎のように一時的にホルモンが上昇する疾患では、数ケ月間の平均化された甲状腺機能を反映する指標としての赤血球CAIおよびZn濃度は、ほとんど変動しないと考えられた。3.赤血球CAIおよびZn濃度は甲状腺ホルモン濃度が高値を示した無痛性甲状腺炎では正常であり、また、TSH不適切分泌症候群ではeuthyroidの例では正常、hyperthyroidの例では低値を示した。 以上の結果から、赤血球CAIおよびZn濃度の測定は、1.数ケ月前の甲状腺機能の把握、2.甲状腺機能亢進症治療時の長期的な経過観察、3.甲状腺機能亢進症と無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎等の一過性に甲状腺ホルモンが上昇する疾患との鑑別、4.末梢代謝の指標の一つとして甲状腺ホルモン不応症の診断などに非常に有用であり、今後はル-チンの検査として、日常臨床の場で広く用いられることが期待される。
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