赤血球炭酸脱水酵素Iアイソザイム(CAI)および亜鉛(Zn)濃度が、甲状腺機能異常症において数ヶ月前の平均化された甲状腺機能を反映する可能性について検討した。 1.赤血球亜鉛濃度はCAI濃度と非常によく相関した(r=0.95)。このことは、甲状腺機能亢進症における赤血球Znの低下が、Znの代謝の促進のためではなく、CAIの低下を反映していることを示している。2.甲状腺機能亢進症の抗甲状腺剤治療後、服薬が不規則で甲状腺ホルモンが著しく変動する例でも、赤血球CAIおよびZn濃度は約2ヶ月前の甲状腺ホルモン濃度を反映し、機能亢進症治療時の長期的な経過観察に有用であった。3.結節性甲状腺腫で1ーT4を投与されており、TSHが抑制されているsubclinical hyperthyroidismの例では、赤血球CAI濃度は有意に低下していた。 以上、昨年度と今年度の研究結果から、赤血球CAIおよびZn濃度の測定は、1.数ヶ月前の甲状腺機能の把握 2.甲状腺機機亢進症治療時の長期的な経過観察 3.甲状腺機能亢進症と無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎等の一過性に甲状腺ホルモンが上昇する疾患との鑑別、末梢代謝の一つとして甲状腺ホルモン不応症の診断等の非常に有用である。 今後の研究では、甲状腺ホルモンが赤血球CAIの合成を抑制する機序について検討し、甲状腺疾患における赤血球CAI測定の意義について更に明らかにするとともに、簡便な測定法を開発し、ル-チンの検査として日常臨床の場で広く用いられるようにしたい。
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