研究概要 |
甲状腺癌は転移後も悪液質に陥ることが少ないなど、他組織由来の癌と著しい相異点を有するが、その細胞生物学的な研究は少なく、モデルたり得る実験系も存在しなかった。これらを克服すべく、我々は実験的甲状腺癌細胞、FRTLーTを樹立し、この母細胞であるFRTLは発現蛋白の相異をdiffrential plaque hybridization法により検討した。その結果、癌細胞であるFRTLーTで発現の増強している3種類の蛋白のcDNAのクロ-ニングに成功した。我々はこれらクロ-ンをそれぞれC13,C17,C140と命名したが、塩基配列の検討の結果、C13リボゾ-ム構成蛋白POと一致し、C17はheat shock proteinの1つであるGRP78蛋白のそれと一致した。C140cDNAは全く未知の蛋白のものであった。次にこれら蛋白の甲状腺細胞増殖における役割を推定する目的で、最も強力なmitogenであるthyrotropinのこれら蛋白合成への影響を検討した結果、いづれの蛋白のmRNAもthyrotropinで増加が認められ、かつこれらはtranscriptionalなレベルでの増加であった。特に、GRP78蛋白の合成は、他組織ではcAMPに依存しないとされ、甲状腺では組織特異的発現調節を受けているものと考えられ、非常に興味深い知見である。一方、P0,GRP78蛋白のmRNAは実際にヒト甲状腺乳頭癌でもその発現増強が認められ、新たな腫瘍マ-カ-としての可能性を示唆するものであった。 以上の結果より、FRTLーT細胞は蛋白レベルでの検討においてもヒト甲状腺癌と極めて類似した性質を有するものであることが判明した。この細胞は転移能をも有しており、更に広範かつ詳細にその性質を研究することにより、甲状腺癌研究に寄与しうるものであると考えられた。
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