研究概要 |
βーシトステロ-ル血症は、ステロ-ル吸収の特異性の欠如により本来は吸収されない植物性ステロ-ルが血中、組織中に著明に増加して、全身性の黄色腫と若年性の動脈硬化症を来す稀な遺伝的疾患である。本研究では、世界で13家系目にあたる家系において、植物ステロ-ルを高速液体クロマトグラフィ-を用いて測定した。患者の血中リポ蛋白分画のステロ-ル中15ー30%はβーシトステロ-ル、カンペステロ-ルをはじめとする植物ステロ-ルであり、リポ蛋白分画による差は認めず、組織中にも同様の分布を認めた。この家系では、従来の報告と異なり、遺伝的にヘテロと考えられる患者の子供例でもわずかではあるものの、血中植物ステロ-ルのみでなく、コレステロ-ルの代謝物であるコレスタノ-ルが健常対照者に比し有意に増加していた。患者には虚血性心疾患、閉塞性動脈硬化症、および赤血球の形態異常が存在した(Hidaka.H.et al J Lipid Res 31:881ー888,1990)。発端者では黄色腫による脊髄圧迫症状を示しており、本疾患で神経学的異常を認めた世界初の症例である(Hatanaka I.et al Ann Neurol 28:390ー393,1990)。 血中に増加した植物ステロ-ルの催動脈硬化の機序については、患者リポ蛋白の代謝上の異常を、ヒト培養線維芽細胞、マクロファ-ジ細胞株J774細胞を用いて低比重リポ蛋白(LDL)代謝経路およびスカベンジャ-代謝経路の面より検討した。患者より単離したLDLに健常者と代謝的差異は認めなかった。現在、動脈硬化症に関係する高比重リポ蛋白の代謝特性について検討中である。また、患者より培養した線維芽細胞におけるLDL代謝経路には正常細胞と差を認めず、アシルCoA:コレステロ-ル アシル転移酵素(ACAT)活性にも質的異常は現在のところ認めていない。
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