内因性ジギタリス様物質(EDLF)の分泌機構:高張食塩水を脳室内に注入すると流血中のジゴキシン様免疫活性物質(DLI)濃度が上昇することは既に明らかにしてきたが、今回の検討では中心静脈圧を上昇するのみでもDLI分泌を促し、高張食塩水を静注しても、その中の食塩は急性の実験条件下では何等の影響も及ぼさないことが判明した。しかし、慢性の食塩負荷条件では脳脊髄液中のナトリウム濃度が上昇することが知られているので、中枢性にDLI分泌が促されるものと推測される。 免疫組織化学的検討:抗ジゴキシン抗体を用いた検討では視床下部の室傍核と視索上核の細胞体にDLIを含むニューロンが在存し、そのうちの一部の細胞はバゾプレッシンやオキシトシンをも含有しているが、DLIのみを有する細胞が多数を占める。DLIを含む神経線維は第三脳室の周囲を走行して一部は終板器官と下弓器官などの脳室周囲器官群に密に集積している。さらに、一部の線維は正中隆起の下垂体門脈系に集束している。下垂体では密度は高くないが、後葉に存在していた。副腎では局在は不明瞭であった。腎では視床下部に比較するとはるかに低いレベルながら尿細管上皮細胞に比較的密に存在していた。 インスリン(INS)抵抗性とEDLF:高血圧、糖尿病、高脂血症、脂肪肝、動脈硬化症などの根底には肥満に伴うINS抵抗性があるとして注目を集めている。腎への作用である尿細管からのナトリウムの再吸収を促す機序がINSによる高血圧の成因と考えられる。ナトリウム貯留があればEDLF分泌が亢進するものと推測してこれらの関連を検討した。その結果、血圧値と血中INS濃度が相関することはもとより、血中INSとDLI濃度とも有意の相関関係を示した。この関係は耐糖能が正常な健常人や明らかな糖尿病患者などに比べて境界型糖尿病患者で最も顕著であった。すなわち、糖尿病患者ではすでに動脈硬化症などの合併症が進行しており、高血圧の発症機序としてINS抵抗性以外の機序が作動しているためにINSと血圧およびDLIなどとの関係が明らかでなくなるものと解釈される。結論的には、INSのナトリウム再吸収作用が高血圧の成因となる典型的な病態である境界型糖尿病ではEDLFがナトリウムバランスを図る際にその代償として高血圧をもたらすものと考えられる。
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