研究概要 |
ウィリス動脈輪閉塞症患者(モヤモヤ病)及び他の頭蓋内疾患患者の頭蓋手術時にえられた頭皮動脈より平滑筋細胞(SMC)を培養樹立した。これらSMCの一般生物学的特徴及び増殖因子に対する応答性につき比較検討した。モヤモヤ病,対照SMC共に有限分裂寿命を有し,最終分裂寿命に差はなかった。モヤモヤ病SMCでは,15%血清存在下,及び5%血清存在下でのPDGF添加による増殖応答性が対照に比し有意に低下していた。無血清により休止期に誘導したSMCへのPDGF添加では,対照SMCが有意にDNA合成を開始するのに対し,モヤモヤ病SMCではDNA合成が有意に刺激されなかった。EGF,IGFー1およびPDGFの同時添加ではモヤモヤ病SMCでもDNA合成は有意に刺激されたが,対照SMCのPDGF単独添加には及ばなかった。 ^<125>IーPDGFーBBによるレセプタ-アッセイでは,モヤモヤ病SMCで対照に比し有意に細胞あたりのレセプタ数が低下していた。解離定数には差が認められなかった。各レセプタ-単位毎に ^<125>IーPDGFのプロセッシングを検討すると,対照とは差がなく,リガンドレセプタ-complexのプロセッシングには異常がないものと判定された。また,37℃2時間PDGFによる前処理を行った後,4℃下 ^<125>I・PDGFを結合させ,レセプタ-のダウンレギュレ-ションを検討した。モヤモヤ病SMCでは,低濃度のPDGD前処理により,対照に比し高度にdown regulationが起きることが明かとなった。こうした結果は,モヤモヤ病SMCでのPDGF反応性低下を示すと共に,その原因としてレセプタ-発現制御異常が存在することを示している。そして,PDGF反応性の低下は,内膜傷害修復機転の障害をもたらし,綬徐ながら,長期に渡る内膜下でのSMCの増殖を促し,内膜肥厚をきたし得るものと考えられる。
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