研究概要 |
本研究は,音声獲得過程における音声使用の変化を調べるために,プロソディの変化に視点を当てて,乳児の音声の音響分析により,定量的解析,検討を行ってきた。 平成3年度においては,作業仮説3「乳児期の音声行動は誰がどのように語りかけているかに応じて変化する」についての検証を行った。 作業仮説3に関しては,乳児と他者(母親以外の成人男女)との交渉場面での音声デ-タから,対母親間での交渉場面と同様,発声の長さ・潜時・基本周波数を測定し,サウンドスペクトログラムによる解析を行った。その結果,早期乳児は多様な高さ・強さ・声質の音声を生成することが可能であるものの,発声数・プロソディに関しては差異が観察された。 以上,平成2・3年度にわたり当初の目的である作業仮説1,「発達の早期段階で乳児は多様な高さ・強さで,多様な声質の音声を生成することが可能になる」,2,「乳児期の8ヵ月齢から10ヵ月齢の発達段階において,児のプロソディは普遍的パタンから母国語に固有なパタンに展開する」,3,「乳児期の音声行動は誰がどのように語りかけているかに応じて変化する」の検証を行ってきたが,さらに,プロソディに獲得過程を明らかにするために,前言語期の乳児の音声プロソディについて,月齢間の差異についての成人による聴取実験を行なった。その結果,早期すなわち言語運用能力が発揮される以前において,表出音声上には多様な感性表現が聴取され,乳児期の音声使用変化においてはプロソディにまずその特徴的傾向が現れることが示された。
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