研究概要 |
1.脳梁欠損マウスの遺伝学的開発:1972年から回避学習用の実験動物として近交系の育成を続けているddN系マウスに,時として,顔面扁平マウスが出現し始めた。組織学的な観察結果,この顔面扁平マウスは100%脳梁を欠損していることが判明した。又,顔面は正常でも脳梁欠損マウスが存在し,脳梁欠損は完全欠損と部分欠損に分けることができた。顔面扁平マウスを親として,兄妹交配を続けていくと,脳梁欠損マウスの出現率が次第に向上しつつある。現在,顔面扁平マウスの雌で6代,雄で3代を経過している。初期に比べ,顔面扁平マウスの出現率は約0.5%と変化がないが,顔面正常で脳梁欠損マウスの出現率が向上し,部分欠損も含めると約35%に達している。脳梁欠損マウスは雌の1例を除いて繁殖力は正常マウスと差が認められない。染色体数にも変化は認められず,発生原因としてカナダのWanlstenが報告している,尾の曲りや授乳中の妊娠とも関係が認められない。現在,発生原因は遺伝学的にpolygenicであり,脳梁欠損マウスの開発には顔面扁平マウスを親とした近交系の育成以外には考へ難い。 2.脳梁機能の解明:脳梁は左右の大脳新皮質を結ぶ交連線維であり,左右の大脳半球の情報を相互に交換している。脳梁欠損マウスの脳波は左右非対称を示すことは既に報告しているが,正常マウスの脳梁を,前部(膝部)幹部及び後部(膨大部)で切断の後,脳波を調べたところ,いづれの部位を切断しても脳波は左右非対称を示すことが判明した。更に,回避学習を行ったところ、脳梁欠損マウスは学習の獲得,記憶の保持に関して,正常マウスと差が認められない。脳梁膝部の切断マウスは学習の獲得は正常マウスと差が認められないが,記憶の保持が著しく阻害されることが判明した。他の幹部,膨大部の切断は学習行動には影響が認められなかった。
|