研究概要 |
1.脳梁欠損マウスの遺伝学的開発:1972年から回避学習用の実験動物として近交系の育成を続けているddN系マウスに,時として顔面の扁平なマウスが出現し始めた。組織学的な観察の結果,この顔面扁平マウスは全て脳梁を完全欠損していることを発見した。又,顔面は正常でも脳梁を欠損するマウスが存在し,脳梁欠損は完全欠損と部分欠損に分けることが出来た。顔面扁平マウスを親として,兄妹交配を続けいてくと,脳梁全欠損マウスの出現率が次第に向上しつつある。現在顔面扁平マウスの雌で9代,雄で4代を経過しているが,顔面扁平マウスの出現率は約0.5%と変化がないが,顔面正常で脳梁欠損のマウスの出現率は向上し,部分欠損も含めると約37%に達している。そして,脳梁欠損マウスの出現率の高い系統が確立されつつある。脳梁欠損マウスの繁殖率は正常マウスと差が認められないが,出生後約2週間の離乳期前に雌親の死亡する例,或いは,早期に親が仔を咬殺する例が数例観察された。現在脳梁欠損の発生原因は遺伝学的にはpolygenicであり,顔面扁平マウスを親として近交系の育成を続け,脳梁欠損の出現率の高い系統を樹立するのが最良の方法と考えられる。 2.脳梁機能の解明:脳梁は左右の大脳新皮質を結ぶ交連線維であり,左右の大脳半球の情報を相互に交換している。マウスの光誘発電位は,刺激側からの情報は視神経交叉で全交叉を行い,対側の視覚野に入り,そこから脳梁を介して同側の視覚野へ至ると考えられるが,脳梁欠損マウス及び脳梁膨大部離断マウスでは,光誘発電位は脳梁欠損のため同側からの測定が不可能であった。更に脳梁欠損マウスはキンドリングの成立が早いこと,又回避学習の成立には,正常マウスと脳梁欠損マウスの間に差が認められないが,脳梁欠損マウスは八方迷路学習は成立し難いこと等の新知識が得られつつある。
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