昨年度(初年度)、島根県益田市内の三つの市立中学に二年生として在籍する生徒とその父親361ペアを対象として、表記の研究課題に即した実態調査を実施し、その単純集計デ-タの分析に基づいて仮説を抽出した。 重要な仮説は(1)父親自身には、役割を遂行しているというはっきりとした自覚があるのだが、(2)父親の役割遂行は子どもの目に見えにくいのではないか、つまり父親の役割は「可視性」が低く、子どもの目からの「観察可能性」も低いのではないか、(3)単に子どもの行動様式の決定だけでなく価値観や人生観の形成に至るまで、重要な影響を与える家族成員は、実は父親ではなく母親ではないのか、といった3点であった。 今年度は、一方で、上記の予測的仮説に基づき、父親の回答と子どもの回答とのズレ、父親の回答と子どもの回答とのクロス集計分析を行なった。そのかたわら、他方では、一つの中学の生徒の回答が際立った特異性を見せていたため、それが何に起因するものか(家族形態の違いによるものか、父親の職業・階層の違いによるものか)を、確かめるため3回調査地を訪れた。 結果的には、今年度の分析と現地聞き取り調査により、上記の仮説は(「最終年度のまとめ」により詳しく書いたように)いずれも実証されたと見ることができる。しかし、特筆すべきは、「父親の影」を濃くするか薄くするかは、父親自身の役割遂行によるよりも、むしろ母親が父親の役割をどうのように評価するかによって決まるという事実が明らかになったことであろう。
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