マウスのマクロファ-ジ細胞株P388D_1は、Fcレセプタ-を介する貧食能を欠く。ところが、糖鎖構造修飾試薬であるスワインソニンやトニカマイシン存在下で細胞を培養すると、貧食能が誘導される。貧食に関与するFcγ2bレセプタ-の糖鎖構造を貧食能の誘導前後で解析したところ、違いがあることが明らかとなった。この変化は、粒子状や可溶性の抗原抗体複合体を用いた実験から、リガンドの結合量や結合の親和性には影響を及ぼさないことが判明した。そこで、レセプタ-へのリガンドの結合シグナルがどのように伝達され取り込み反応に結びつくのかという点に着目して、貧食能の誘導機構を解析した。先ず、糖鎖の構造修飾による貧食能の誘導前後で、タンパク質のリン酸化を見た。その結果、貧食能を獲得した細胞のみがリガンドの結合に依存する数種のタンパク質のリン酸化をおこすことがわかった。この中にはFcレセプタ-自身も含まれ、リン酸化アミノ酸はセリンであった。また、非貧食性の未処理細胞にcAMPやアデニル酸シクラ-ゼの活性化剤であるフォルスコリンを添加したところ、貧食能の誘導が見られた。従って、貧食過程にはFcレセプタ-へのリガンドの結合に依存するタンパク質リン酸化が重要な反応として含まれることが示唆された。更に、リガンドの結合がどのようにしてリン酸化や貧食能を誘導するのかということに関連し、アラキドン酸代謝の関与を検討した。その結果、貧食を誘導した細胞のみがリガンドの結合に依存するアラキドン酸の遊離およびホスホリパ-ゼA_2活性の上昇を示すことが明らかとなった。アラキドン酸代謝阻害剤は、タンパク質のリン酸化や貧食を阻害することも明らかになり、糖鎖の構造修飾によって誘導される貧食過程にはアラキドン酸代謝、タンパク質のリン酸化反応の活性化が重要な反応として介在することが示された。
|