研究概要 |
初年度は模擬宇宙環境作製用クライオスタット(-196℃,10^<-5>気圧)を設計作製し,本学所有のバンデグラフ型加速器により,太陽系宇宙放射線の大部分をしめる陽子線照射を行った。照射試料として地球環境下で善遍的に存在している大腸菌,枯草菌,乳酸発酵菌,放線菌,酵母,黒カビ,又特異環境下に存在するタバコモザイクウィルス,嫌気性菌,古細菌である好塩菌を用いた。照射条件は1MeV,0、01〜0、1μAが最適であった。まず,低温真空に対する影響をみるためクライオスタット内に試料を設置して,上記低温真空の条件下で24時間処理した。その結果,大腸菌,連鎖球菌,放線菌の胞子,酵母,古細菌は99、9%以下の残存率であった。それに対して,タバコモザイクウィルス,枯草菌の胞子,ブドウ球菌,ミクロコッカス,黒カビの胞子,嫌気性菌の胞子は各々61%,55%,6%,24%,48%,71%であった。さらに,クライオスタット内で宇宙空間の250年間に浴びると同等量の陽子線を1時間以内で照射したところ,前述した5菌種はすべて死滅していたが,後述の6菌種は無照射試料に対して51%,55%,23%,13%,48%,71%の高い残存率を示した。又,日和見感染症をおこす病原真菌と用いて,陽子線の突然変異作用を検討した。照射試料をフロ-サイトメトリ-により検索した結果,照射量の非常に低いところで細胞内容物に変化が見られた。これが核酸によるものなのか,あるいは蛋白質,膜構成成分によるものなのかは現在検討中である。 以上の結果より,近い将来予定されてる太陽系の感星探査や宇宙ステ-ション建設の際には,地球由来微生物による宇宙環境汚染の充分なる防護対策が必要であることが示唆された。(これらの結果は17th International Symposium on Space Technology and Science,May20ー25,1990,Tokyo,Japan.と28th Planetary Meeting and Associated Activities Committee on Space Research,June25ーJuly 6,1990,Den Hague,Holland.で発表した。)
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