1。磁気感覚器官の解剖学的部位の確定 鮭の三半規管を取り出して溶解抽出法及びベルリン青鉄染色法により確かめたところ、ここには多量の磁性微粒子が存在していることが見出された。従来磁性微粒子は篩骨を中心に存在すると言われていたが、この通説を翻す知見を得ることができた。三半規管は脳に近く平衡感覚を司る器官なので、ここに磁気感覚器官があるということは、説得力がありまた神経系との接続を考察する上でも都合の良い知見といえよう。今後他の組織についても磁性微粒子や器官の抽出を行っていく予定である。 2。卵からの磁性微粒子の発見 鮭の体内磁性微粒子が、成長段階の何時獲得されるかについては諸説あるが、確定的なことは判っていなかった。今年度採用したベルリン青鉄染色によって、卵1個に磁性微粒子群が1組存在することが確かめられた。これによって鮭は発生の初期から既に磁気センサを持つように決定づけられているということができよう。これは生物の発生や進化に対して、地磁気が関係しているということを示すもので新しい知見であろう。 3。磁気感覚器官の磁界に対する動作の解析 前年度以前に既に見いだされている、磁気感覚器官と思われる2種の器官(楕円状の組織を磁性微粒子が取り囲んでいるもの)について、有限要素法を用いて磁界中の振舞いを検討した。この結果、いずれの器官も磁界中におかれた場合、磁界と直角な磁気モ-メントを持つ粒子が最大トルクを受け、周囲の組織にある力を及ぼしていることが判った。従って磁界の方向が変われば、最大のトルクを受ける組織の部位も変わるので、この器官により磁界方向の検知を行えるものと考えられる。
|