本研究では、細胞質にみられるFーアクチンのゲル状構造に着目し、その構造をin vitroで再構成し、そのオスモティックな性質を明らかにすることにより、細胞が示す体積調節機構を明らかにする上で以下の成果を得た。 1.半透膜を隔てて外液と接し、上端にキャピラリ-をもつオスモメ-タ-を「モデル細胞」として用いるシステムを開発した。このシステムでは、キャピラリ-内の気液界面の高さの変化を測定し、その体積変化を定量的に求めることができ、体積調節機構に関与する因子を同定することが可能となった。 2.「モデル細胞」内のFーアクチンが、外部と内部の浸透圧の不均衡(オスモティック・ストレス)から生じる水の流れ(容積流)を部分的に抑制し、更にFーアクチン濃度が3mg/ml以上になると、20cm・H20以下のオスモティック・ストレスのもとでは、全く観測されなくなった。この濃度は、個々のFーアクチンが自由に動けなくなり、一種のゲル状態を形成する濃度とほぼ、一致する。しかし、オスモティック・ストレスが20cm・H_2O以上になると、急激な容積流が一時的に観測された後、定常的な容積流が観測された。これは、ゲル状態の崩壊に伴うものと考えられる。 3.細胞質にみられるFーアクチンの等方ゲル構造を、Fーアクチンをactinーbinding protein(ABP)で架橋することにより再構成した。このようなアクチンゲルでは、65cm・H_2Oのオスモティック・ストレスを加えても容積流は全く観測されず、「モデル細胞」はその体積を一定に保ったままであった。 4.上記アクチンゲルを、μMのカルシウムの存在下でゲルゾリンによってアクチンフィラメントを切断し、ゾル化するとオスモティック・ストレスに伴う水の流れが再び生じるようになった。
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