研究概要 |
本研究では,非線形光波長変換を用いた波長可変で狭スペクトルの中赤外光発生に取り組んでおり,昨年度までに,差周波発生(DFG)用の2波長励起光源として周期分極反転LiNbO_3 (PPLN)結晶を用いた光パラメトリック発振器(OPO)とそのスペクトル制御,および中赤外光発生DFGのための結晶材料に対する基礎検討を行った.本年度は,まず高速な波長同調を実現するために電界同調に対する検討を進め,新たに中央部に電界印加用のセグメントを設けた特殊なPPLNを設計・作製し,OPO動作特性を検討した.PPLNへの印加電圧0〜5kVを用いた電界同調により,シグナル波に対して1.93-1.91μm,アイドラー波に対して2.38-2.40μmの波長可変性を得た.これにより,AgGaS_2(AGS)を用いたDFGから波長94-10.5μmの中赤外光を得ることに成功した.実用的な中赤外光源を実現するには,さらに発生効率を高め,高出力を得ることが重要となるが,DFGを用いた方式ではその実現が難しい.そこで,新しい方式として,OPOによって中赤外光を直接発生させることを検討した.このため,新しい非線形光学材料としてZhGeP_2(ZGP)に着目した.この中赤外領域のZGP-OPOには狭スペクトルの長波長(2μm以上)励起光源が必要となる.そこで,まず波長1.06μmのNd:YAGレーザー光を励起光源としてKTP-OPO(タイプII位相整合)を縮退点付近で発振させ,狭スペクトルの2μm帯光源を得た.さらに,この光源を用いてZGF-OPOを,広い波長領域6-9μmで発振させることに成功した.このZGP-OPOでは,波長8μm付近で10%程度の非常に高い変換効率が得られており,ピーク出力で数百kW以上の高出力を実現した.これは,これまでOPOとDFGを組み合わせた中赤外光発生の実験をはるかに上回る特性である.なお,さらに変換効率を高めるためには,ZGP-OPOの共振器内にAGSなどのDFG結晶を挿入すればよいと考えられ,これにより,バックコンバージョン効果を抑制できるとともに,シグナル光子からさらにアイドラー光子(中赤外域)を発生させることができ,20%以上の変換効率も実現できることを明らかにした.
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