本研究は金属ポルフィリン錯体によるDNA切断酵素の活性化現象を解明し、その結果をアフリカ睡眠病の治療へと発展させることを目的とする。本年度は種々の金属ポルフィリンを合成し、DNAの酵素切断反応とDNAのコンホーメーションの変化を吸収スペクトル、CDスペクトル、及び蛍光スペクトルより調べた。次の結果を得た。 (1)陽イオン性ポルフィリン、テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィリン(H_2TMPyP^<4+>)と金(III)、白金(II)、パラジウム(II)とのポルフィリン錯体を合成した。 (2)合成した金属ポルフィリン錯体の共存下でDNAの制限酵素によるDNA切断反応を行い、電気泳動のパターンにもとづいてDNA切断の様式を解析した。 (3)Au(TMPyP)^<5+>+及びPd(TMPyP)^<4+>はDNA制限酵素によるDNA切断反応を促進した。一方Pt(TMPyP)^<4+>はDNA制限酵素によるDNA切断反応に影響を与えなかった。 (4)UV/Visスペクトル及びCDスペクトルの測定では、上記の三種のポルフィリン錯体はいずれもDNAにインターカレーションによって結合していることが明らかになった。 (5)蛍光および燐光スペクトルの測定では、次のような興味ある結果を得た。 (6)Au(TMPyP)^<5+>は蛍光スペクトルだけを示し、Pt(TMPyP)^<4+>は燐光スペクトルだけを、Pd(TMPyP)^<4+>は蛍光と燐光スペクトルの両方を示した。 (7)DNAを過剰に加えると、燐光スペクトルは増大し、蛍光スペクトルは減少した。 (8)DNAにインターカレートした金属ポルフィリンは、溶液中の酸素と遮断されるために燐光が増大すると考えられる。 (9)DNA制限酵素の活性化にはDNAのコンホーメーションの他に燐光を発しやすい金属ポルフィリンによる溶存酸素を活性化があることが明らかになった。
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