研究代表者は、これまでにビタミンの一種であるビオチンの代謝異常症について研究を行なってきた。中でも、ビオチンを4種類のカルボキシラーゼに結合させるホロカルボキシラーゼ合成酵素の欠損症について分子遺伝学的な解析を行い、数多くの遺伝子変異の同定と機能解析を報告してきた。 一方、ビオチンを補酵素とするプロピオニルCoAカルボキシラーゼ(PCC)の遺伝的欠損は、プロピオン酸血症をひきおこすことが知られている。本疾患は常染色体劣性遺伝性疾患で、体内に大量のプロピオニルCoA及びその代謝産物が蓄積する。PCCはミトコンドリア基質に局在し、二つ異なったサブユニットからなりα_6β_6構造をとる。プロピオン酸血症はα、βいずれかのサブユニットの障害により引き起こされる。これまで、病因変異の検索は欧米人患者を中心に進められてきたが、日本人患者を対象とした系統的な解析は行われてこなかった。そこで、日本各地の病院からプロピオン酸血症が疑われる症例30例を収集し、酵素診断と化学診断を行った。つぎに、患者及びその両親からインフォームドコンセントを得たうえで、遺伝子解析を開始した。30例の日本人プロピオン酸血症患者のうち、15例がα鎖の欠損、15例がβ鎖の欠損であった。今回、α鎖に5種類、β鎖に2種類の新しい変異が見いだされた。また1例においてα鎖遺伝子のExon 21の欠失が示唆された。α鎖欠損患者では、917-923insT、IVS18-6C>G、R399Qが15症例における変異アリルの57%を占め、日本人α鎖欠損症例における高頻度変異と考えられた。β鎖欠損患者では、R41OW、T428Iが15症例における変異アリルの56%を占め、さらにA153PとIVS9+1G>Tを加えると83%になり、したがって、これらが日本人β鎖欠損症例における高頻度変異と考えられた。 以上の結果は、日本人PCCの遺伝子検査を行ううえで有用と考えられた。本研究はMolecular Genetics and Metabolism誌に掲載されることになっている。
|