本研究の目的は、米国の食品安全管理システムを取り上げ食品安全性がどのようにコントロールされているかを総合的に分析・検証したうえで、日本のシステム構築への提言を行うことである。具体的な課題として以下の4つを設定した。(1)安全性管理システムとそれを支える経済理論を検討する。(2)食品安全管理の新しい手法として注目されている「リスクアナリシス」の手法について、とくに食肉を対象により詳細な実証分析を行い、その導入の到達点と問題点を解明する。(3)以上にもとづいてアメリカの食品安全管理システムの経験から得られる、日本の食品安全確保システム構築への知見をまとめる。(4)また、食肉を対象にリスクアナリシスの手法にもとづく安全性管理の基本モデルの提示を試みる。 本年度においては、主に課題(1)に関する研究を行い、その結果を雑誌論文として公表した。具体的な内容としては、まず、アメリカの食品安全が、安全な食品生産を要求する市場の圧力、法律などによる直接規制、安全な食品生産に与えられる法的インセンティブによって確保されているという考え方に基づき、アメリカの食品安全政策を、(1)市場圧力に対する企業側に自主的対策とそれへの政府の支援・調整(自主的政策)、(2)法的直接規制(義務的政策)、(3)法的インセンティブ政策としての「PL法」という3つに整理したうえで、それぞれにおける、食品そのものの安全確保対策と安全情報に関する規制という2つの側面に焦点を当て検討した。自主的政策領域としては、業界による自主的基準設定や認証、自主的HACCP、自主表示、有機認証などを、また義務的政策領域としては、残留物質基準設定と検査、強制的HACCP、表示規制、情報の強制開示などを取り上げ分析した。最後には、アメリカの食品安全政策の問題点と課題を明らかにした。
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