我々は光学活性アミノ酸誘導体の不斉(α-アルキル化が外部不斉源の非存在下に高エナンチオ選択的に進行すること、及びこの反応が動的な軸性不斉を持つキラルエノレートを経由して進行することを報告している。本法はユニークな不斉合成法として、また新しいエノレート化学として発展する可能性を秘めているが、キラルエノレートが比較的長いラセミ化の半減期を持つことが不斉誘導に必須で、これが本法の適用範囲を極めて限られたものにしていた。本法を分子内反応に適用することでラセミ化半減期の短いキラルエノレートの利用を可能にし、本不斉誘導法の不斉プロセスとして一般性獲得を目的とした研究の第一歩として、本年度はエノレートの動的不斉を利用する不斉環化反応を検討した。 我々はアミノ酸の窒素の保護基をBoc基とMOM基にするとエノレート中間体のキラリティーが失われずに保持され不斉合成に有効に利用できることを既に報告している。そこでフェニルアラニンの窒素にBoc基と3-ブロモプロピル基を持つ誘導体を合成し、塩基処理すると予想通り環化反応が起り、2-ベンジルプロリン誘導体が98%eeで得られた。本反応は立体保持で進行した。また窒素にBoc基と4-ブトキシカルボニル-3-ブテニル基を持つ誘導体では、塩基処理により分子内共役付加を起こし、環化成績体が1〜4:1のジアステレオ比、56〜84%eeで得られた。
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