我々は光学活性アミノ酸誘導体の不斉α-アルキル化が外部不斉源の非存在下に高エナンチオ選択的に進行すること、及びこの反応が動的な軸性不斉を持つキラルエノラートを経由して進行することを報告している。本法はユニークな不斉合成法として、また新しいエノレート化学として発展する可能性を秘めているが、キラルエノレートが比較的長いラセミ化の半減期を持つことが不斉誘導に必須で、このことが本法の適用範囲を極めて限られたものにしていた。そこで本法を分子内反応に適用することでラセミ化半減期の短いキラルエノレートの利用を可能にし、本不斉誘導法の不斉プロセスとしての一般性獲得を目的とした研究を行なっている。昨年度はエノレートの動的不斉を利用する極めて高選択的な不斉環化反応法の開発に成功した。 本年度はアミノ酸誘導体から生成するキラルエノレートの分子内共役付加によるキラル含窒素複素環合成を行なった。フェニルアラニンの窒素にBoc基とMichael受容体を持つ基質を塩基(KHMDS)処理すると5〜7員環の環化が進行し、目的とする含窒素複素環が91〜97% eeで得られた。この方法は連続する4級-3級不斉炭素の立体選択的構築に極めて有用である。この方法は種々のアミノ酸に適用でき、配座固定型グルタミン酸誘導体を合成した。また本法は芳香環を含むMichael受容体を持つ基質にも適用でき、多置換テトラヒドロイシキノリンを一気に構築できた。
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