まず、フグ毒テトロドトキシン(TTX)を保有することが知られている紐形動物(ヒモムシ)と扇形動物(ヒラムシ)を対象として、既報の方店に基づきTTXの組織内微細分布を調べた。すなわち、2003年に広島湾で採取したヒモムシCephalothrix sp.ならびに神奈川県三浦半島で採取したツノヒラムシPlanocera reticulataにつき、10%ホルマリンで固定後、パラフィン包埋し、薄切切片を作成した。いずれも10%H_2O_2および25%ヤギ血清で処理後、抗TTX抗体を反応させ、次いでEnvision+により酵素標識のうえ、DAB基質溶液を用いて発色させた。さらにGill hematoxylinによる対比染色を施した後、光学顕微鏡で観察したところ、Cephalothrix sp.については、まず体壁をみると、TTXの陽性反応(褐色)は、表皮杵状細胞の尖端に配列する小胞と基底膜に認められた。次いで吻(proboscis)では、擬刺胞(pseudocnides)自体にTTXの分布はみられなかったものの、それに隣接する上皮顆粒細胞に顕著な陽性反応が観察された。その他、吻腔(rhynchocoel)上皮、吻腔や血管に近い消化管壁の基底部に分布する小胞、血管中に突き出た腎管の球状末端、卵などにもTTXの分布が確認された。一方、ツノヒラムシでは、卵にのみ顕著なTTX陽性反応が観察された。 他方、昨年度の予備実験では、(1)パラホルムアルデヒト等を含むリン酸緩衝液で固定、(2)LR白色樹脂に包埋、(3)超薄切切片作成、(4)抗TTX抗体、次いて抗マウスIgG immunogoldと反応、(5)酢酸ウラニルで染色、(5)電子顕微鏡下での観察、という手順により、フグ組織におけるTTXの超微細分布の可視化が可能であることが示された。この方法をミドリフグTetraodon nigroviridisに適用したところ、TTXは皮の未分化基底細胞と分泌細胞に見られるが、さらに微視的には基底細胞中のリソゾームに局在すること、などか明らかとなった。
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