研究概要 |
本研究員との初年度(2002年度)の共同研究では,「Renyiエントロピーに基づく記述がマルチフラクタル性を有する系に最適である」ことを,情報量という観点から一般的に論じ,非Gibbsエントロピーが有するパラメータと状態空間のHausdorff次元の間に成立する関係を明らかにした。これは,非平衡定常状態を記述するアンサンブル理論を,Renyiエントロピー(示量性)あるいはTsallisエントロピー(非示量性)に基づいて構築し,その背景にマルチフラクタル的な自己相似性の内在する系が呈する大偏差統計に対する一般論への基礎を提供したことに当たる。 さらに,Hagedornの統計理論をRenyi統計に基づいて一般化し,Hagedorn温度が従来予想されているものより低くなることを発見した。この議論は,重イオン衝突で生成されるクォーク・グルオン・プラズマの緩和現象解明への手掛かりを与えるものである。Hagedorn理論を非Gibbs統計に基づくものへ拡張することにより,高エネルギー散乱(e^+e^-annihilation)における横モーメンタム微分断面積が呈する羃的振る舞いを説明するものと予想される。これは,従来のHagedorn理論では説明できないものである。重イオン衝突実験が開始されている現時点で,乱流系で成功を収めている新しい統計理論により測定結果を解析することの意義はきわめて大きい。これらと平行して,超流動ヘリウム中のタングル分布,銀河間相対速度分布や宇宙ストリング分布のこの理論による解析も進めている。 最近,「Renyiエントロピーは観測可能量ではない」という信じがたい論文が出された。本研究員と急遽この問題にあたり,その論文の誤りを指摘すると共に,観測可能量の定義を物理的に再検討し,Renyiエントロピーは観測量であることを示した。これは,実験家やシミュレーション屋が実際にRenyiエントロピーを観測し利用していることから当然の結論であるが,Renyiエントロピーのさらに詳しい理解に繋がる仕事となった。 また,海外で(ヨーロッパ,米国)で開催される国際会議に積極的に出席し,研究成果の講演を実施した。
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